「受け止める」と「受け入れる」の違い――対話の基本姿勢としての「受け止める」
対話をするときには、相手の話を「受け止める」ことが大切です。
これは「受け入れる」とは違います。
「受け入れなければ」と思って、対話が苦しいと感じたことはないでしょうか。
ここでは、「受け止める」と「受け入れる」の違いについて考えながら、
対話における基本姿勢を整理していきたいと思います。
【「受け止める」と「受け入れる」の違い】
「受け止める」は、相手の話をまずそのまま聴き、理解しようとする姿勢を指します。
一方「受け入れる」は、相手の考えや価値観に同意することに近い意味を持つことだと思います。
例えば友人が、「最近の仕事が本当に嫌になってきた」と言ったとしましょう。
「受け止める」場合: 「そうなんだ。今の仕事、つらいんだね。」
「受け入れる」場合: 「そうだよね。この仕事は本当にダメだよね。」
前者は、相手の気持ちをそのまま受け止め、共感に繋げる姿勢です。
後者は、相手の意見に同意し、同じ立場に立つことになるでしょう。
人それぞれに大事にしている考え方や価値観があるので、
相手のすべての意見や考えに同意することは難しいですよね。
対話において大切なのは、「受け入れる」ことではなく、まずは「受け止める」ことです。
相手の話や考えなどに対して、賛同するでも否定するでもなく
判断を保留して「そうなんだね」と一旦そのまま受け止めることが
対話の基本姿勢といえるでしょう。
【どうして判断を保留して受け止めることが大切なのか】
対話の中で、相手の話を聴きながら、自分の意見や価値観と違うと感じることはよくあります。
そのとき、「いや、それは違う」「でも、こう考えたほうがいいんじゃない?」と
自分の中に生まれた意見や考えなどの判断に意識をとられたり、すぐに反論したりすると、
相手の話をきちんと受け止めることができなくなります。
相手も「自分の話を聴いてもらえていない」と感じて
「あまり深い話はしないでおこうかな」「もうこれ以上話すのは止めようかな」と
考えてしまうでしょう。
対話は、相手の話を受け止めることから始まると思います。
相手が話したことに対して判断を保留して、相手の話をじっくりと聴いて
「そう感じたんだね」「そんな経験をしたんだね」とまずは受け止めること。
そうすると相手は「自分の気持ちを分かってもらえた」と感じ、
より深く話をすることに繋がっていきます。
【「受け止める」ことが難しいと感じるとき】
「相手の話を否定せずに受け止めましょう」と言われてしまうと、
「でも、自分が納得できないことまで?」と疑問に思うことでしょう。
相手の意見や価値観が自分と違うときに、それをそのまま受け止めるのは
難しいと感じることもあります。
「受け止めること」と「同意すること」は違う、ということを思い出してください。
相手の話を聴いて、「なるほど、あなたはそう感じたんだね」と理解することと、
「そうだね、あなたの意見が正しいね」と同意することは別です。
受け止めるとは、相手の視点を尊重し、その人の感じ方や考えを「そういうものなんだ」と理解すること。
その上で、自分の意見を持つことは自由だと思います。
【「受け止める」から「共感」へ】
対話の中で、ただ話を受け止めるだけではなく、さらに一歩進んで共感できると、
より深いコミュニケーションに繋がると思います。
共感するためには、まず相手の話をしっかり受け止めることが前提です。
例えば相手が「今の仕事がつらくて仕方がない」と話したとき、
あなたがすぐに「そんなことで悩んでいたらダメだよ」と言ってしまうと、
相手は「分かってもらえなかった」と感じてしまうでしょう。
「そっか、それはつらいね。仕事でどんなことがあったの?」と受け止めることで、
相手が「自分の気持ちを分かろうとしてくれている」と感じると、相手はさらに話しやすくなります。
「もし自分がその立場だったら、きっと同じように感じるかもしれないな」
と思えたとしたら、それは共感に繋がっていくでしょう。
そのときに「そうだね、それはしんどいよね」「そういう状況だったら、私もそう感じると思う」
と共感を伝えられると、相手はより安心して気持ちを話せるようになります。
対話の第一歩は「受け止める」こと。
対話の基本姿勢として、「受け止める」ことの大切さをお伝えしました。
・「受け止める」と「受け入れる」は違う。
・「受け止める」とは、相手の話をまずそのまま受け入れることではなく、
理解しようとすること。
・「受け入れる」とは、相手の意見に同意することに近い意味を持つ。
・「受け止める」ことは、共感に繋がる。
・相手の話に対して判断を保留して「受け止める」ことが、
安心して話せる関係をつくる。
対話をするとき、「いま自分は相手の話をちゃんと受け止められているかな?」と意識するだけで、
コミュニケーションの質はぐっと変わると思います。
目の前の相手の話をしっかり受け止めることから、対話を深めていきましょう。
スタッフイノウエ